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最高裁判所第二小法廷 昭和27年(オ)632号 判決 1954年4月02日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士長尾章の上告理由第一点について。

原判決は、上告人の取締役東京支店長であつた浜口益治が被上告人に金融を得させる目的で本件約束手形を被上告人を受取人として振出し交付し、被上告人はその際これと引換えに上告人に金融を得させる目的で本件手形と同一金額、同一満期日の約束手形一通を上告人を受取人として振出し交付した事実を確定したのであるが、さらに右両個の手形を交換的に振出すにいたつた事情について、諸般の事実関係を認定した上、右のごとき「手形振出にいたる経緯及び本件口頭弁論の全趣旨を綜合すれば、控訴人(被上告人)は被控訴人(上告人)振出の本件手形によつて金融の便宜を与えられるとともに、これと引換えに自己振出の前記手形を被控訴人に交付し、被控訴人がこれによつて金融を得ることを承認したものと認めるべきであつて、本件手形と右手形とは相互に対価関係に立つものと認めるのを相当とする」と判示しているのであつて、その判意は右の場合、両当事者の間においては、右融通手形の交換を以て相互にこれを対価関係とし、一方がその振出手形の支払を了した上は、他方においてもその手形振出人としての債務を履行すべき旨の合意が存在したものと解すべきである、との趣意であつて、右原判決の判断は相当である。しかして右被上告人振出の手形については上告人はこれを訴外中央信託銀行株式会社に割引のため譲渡して、その割引金を取得し被上告人は、手形所持人から請求を受け振出人として支払を了したことは、また原判決の確定するところである。そして通常、融通手形の振出人とその直接の相手方たる受取人との間には手形振出の原因関係がないのであるから振出人は右受取人に対して融通手形の抗弁を対抗できることはいうまでもないことであるが、本件のごとく当事者間に融通手形を交換し、相互にこれを対価とする旨の前記のごとき合意のなされた場合においては、その一方の手形金の支払を了したときには他に反対の事情のない限り他方の融通手形の振出人は受取人に対して融通手形の抗弁を対抗することができないものと解するのが相当である。然らば右と同一趣旨にいでた原判決は正当であつて論旨は理由がない。

同第二点について。

本件手形の振出行為が上告人にその効力を及ぼすものであるとした原審の判断は正当であつて、原判決には所論のような違法なく論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、八九条、九五条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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